GYNECOLOGY RESEARCHWINDの活動:婦人科研究

患者さんにあわせた
治療方法の
開発に向けた取り組み

婦人科 朝野拓史

私たちのグループでは、婦人科悪性腫瘍の患者さんそれぞれの病状・腫瘍組織の特徴にあわせた治療方法の開発を目指しています。
北海道大学病院婦人科あるいはWIND関連病院で治療された患者さんで研究に協力していただいた方について、以下の4つの特徴を検討し、それぞれを統合したデータベースの構築を目指しています。それによって、新たな患者さんに対し、患者さんの特徴に合わせた治療方法を提供できるようにしたいと考えています。

  • 1. 患者さんの臨床的な特徴
  • 2. 腫瘍組織の病理学的な特徴
  • 3. 腫瘍組織の遺伝子発現や遺伝子変異などの特徴
  • 4. 患者さん由来の腫瘍組織を用いた薬剤スクリーニング

図1. この研究で目指しているこれからの婦人科悪性腫瘍の治療方法。 今まで癌の治療をされた患者さんの臨床経過、病理組織、腫瘍組織の遺伝子解析、また可能な患者さんでは腫瘍組織を用いた薬剤スクリーニングを行い、どのような患者さんにどのような治療が良いのかを検討して、これから治療を受ける患者さんに生かしたいと考えています。

研究業績

L1CAM Predicts Adverse Outcomes in Patients With Endometrial Cancer Undergoing Full Lymphadenectomy and Adjuvant Chemotherapy. Hiroshi Asano, Kanako C Hatanaka, Ryosuke Matsuoka, Peixin Dong, Takashi Mitamura, Yosuke Konno, Tatsuya Kato, Noriko Kobayashi, Kei Ihira, Ayako Nozaki, Akira Oku, Yoshihiro Matsuno, Yutaka Hatanaka, Hidemichi Watari. Ann Surg Oncol. 2019 Dec 2. doi: 10.1245/s10434-019-08103-2. Online ahead of print. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31792716/?from_term=Asano+H&from_cauthor_id=31792716&from_pos=1

進行卵巣癌の
完全治癒を目指して

婦人科 三田村 卓

遠隔転移や広範囲の腹腔内播種をきたした状態で発見された進行卵巣癌患者が、治療開始から10年後に全身の腫瘍が消えて健康な状態で生存している、すなわち完全に治癒している確率は、5%未満と推定されています。逆に、一部の患者さんは一度も再発を経験せずに健康な状態を維持し続けて、驚異的な長期生存を遂げています。同じ病気なのになぜ患者さんにより治療に対する感受性や再発率が大きく異なるのか、その原因についてはまだ十分に解明されていません。もし完全治癒を達成した患者さんの体質に関わる遺伝子学的背景を解明することができれば、その情報をもとに副作用が少なくかつ最大限の効果を発揮できる治療法を確立することができるかもしれません。現在我々は、進行卵巣癌を克服した患者さんに協力していただき、このような患者さんの体質を再現したマウスモデルの作製に取り組んでいます。

研究紹介

婦人科 董 培新

婦人科癌の分子機序の解明と、その理解に基づいた新しい分子治療法の開発を中心に、特に非翻訳RNA等エピジェネティクスの異常やそれを制御する機構に着目し、婦人科癌細胞の機能を制御するシグナル伝達機構全般の解明を進めている。その成果として得られた知見に基づいて、動物モデルや臨床検体を用いた研究を通じて、新たな診断・治療法開発への展開を目指している。具体的には、大きく3つの方向性に沿い、精力的に研究を進めている。

(1)「非翻訳RNA分子ネットワークの探索による婦人科癌分子機構の解明」:数百から数万塩基長の長鎖非翻訳RNAは、転写因子やポリコーム蛋白質EZH2、また20塩基程度のmicroRNAとの相互作用によって、分子ネットワークを形成し、遺伝子の転写と翻訳を制御することで、腫瘍の発生と進展に関与する。長鎖非翻訳RNA(NEAT1など)は、子宮体癌と子宮頸癌を含む多くの腫瘍の形成と転移を促進する役割を果たしている(図)。これらの非翻訳RNA分子ネットワークが、どのように高悪性度・難治性子宮体癌、子宮頸癌及び卵巣癌の転移、癌幹細胞性、抗癌剤耐性、糖代謝異常及び癌微小環境の制御に関わっているのかを詳細に研究している。

主要文献:

  • 1. Dong P, Xiong Y, Yue J, Hanley SJB, Kobayashi N, Todo Y, Watari H. Long Non-coding RNA NEAT1: A Novel Target for Diagnosis and Therapy in Human Tumors. Front Genet. 2018;9:471. doi:10.3389/fgene.2018.00471.
  • 2. Dong P, Xiong Y, Yue J, Xu D, Ihira K, Konno Y, Kobayashi N, Todo Y, Watari H. Long noncoding RNA NEAT1 drives aggressive endometrial cancer progression via miR-361-regulated networks involving STAT3 and tumor microenvironment-related genes. J Exp Clin Cancer Res. 2019;38:295. doi: 10.1186/s13046-019-1306-9.
  • 3. Dong P, Xiong Y, Yue J, J B Hanley S, Kobayashi N, Todo Y, Watari H. Exploring lncRNA-Mediated Regulatory Networks in Endometrial Cancer Cells and the Tumor Microenvironment: Advances and Challenges. Cancers (Basel). 2019;11:234. doi: 10.3390/cancers11020234.
  • 4. Xu D, Dong P, Xiong Y, Yue J, Konno Y, Ihira K, Kobayashi N, Todo Y, Watari H. MicroRNA-361-Mediated Inhibition of HSP90 Expression and EMT in Cervical Cancer Is Counteracted by Oncogenic lncRNA NEAT1. Cells. 2020;9:632. doi: 10.3390/cells9030632.

(2)「免疫チェックポイント分子を標的する婦人科癌の新たな治療戦略」:癌細胞はPD-L1などの「免疫チェックポイント」分子を活性化することで、生体免疫システムの攻撃から逃避する。我々は、PD-L1は子宮頸癌細胞株に発現亢進し、癌細胞の増殖能と浸潤能を著しく促進することを独自に発見した(図)。今後、婦人科癌細胞悪性形質の獲得と免疫抑制的な微小環境の構築に関わるチェックポイント分子経路を制御することで、癌細胞を攻撃するのみならず、癌細胞周囲の微小環境も改善できる新たな婦人科癌治療戦略の開発を目指している。

要文献:

  • 1. Dong P, Xiong Y, Yue J, Hanley SJB, Watari H. Tumor-Intrinsic PD-L1 Signaling in Cancer Initiation, Development and Treatment: Beyond Immune Evasion. Front Oncol. 2018;8:386. doi: 10.3389/fonc.2018.00386.
  • 2. Dong P, Xiong Y, Yu J, Chen L, Tao T, Yi S, Hanley SJB, Yue J, Watari H, Sakuragi N. Control of PD-L1 expression by miR-140/142/340/383 and oncogenic activation of the OCT4-miR-18a pathway in cervical cancer. Oncogene. 2018;37:5257-5268. doi: 10.1038/s41388-018-0347-4.
  • 3. Dong P, Xiong Y, Yue J, Hanley SJB, Watari H. B7H3 As a Promoter of Metastasis and Promising Therapeutic Target. Front Oncol. 2018;8:264. doi: 10.3389/fonc.2018.00264.

(3)「ゲノム編集技術CRISPR-Cas9法を用いた婦人科癌分子メカニズムの解明と新しい治療法の開発」:癌抑制遺伝子p53の発現低下と機能喪失が、癌の発生と進展に極めて重要な役割を担う。iASPPは、p53蛋白質に直接に結合し、その機能を抑制することで、p53の負の調節因子として機能する。また、最先端のゲノム編集技術CRISPR-Cas9法を用いて、組織破壊と癌浸潤の主役と考えられているSurvivin遺伝子の発現を抑制すると、卵巣癌細胞の上皮間葉転換(EMT)と細胞浸潤の抑制のみならず、卵巣癌の遠隔転移も抑制できること、また化学療法との併用が強力な相乗的抗癌効果を引き起こすことを明らかにした。現在、CRISPR-Cas9法を用いた遺伝子ノックアウトにより、婦人科癌の病態を規定する分子ネットワークの徹底解明を試みている。更に、CRISPR-Cas9法を活用することで、iASPPなどの癌遺伝子や癌促進的microRNAの発現を効果的に抑制することによって、婦人科癌の新たな治療法の開発を目指している。

主要文献:

  • 1. Dong P, Xiong Y, Watari H, Hanley SJ, Konno Y, Ihira K, Suzuki F, Yamada T, Kudo M, Yue J, Sakuragi N. Suppression of iASPP-dependent aggressiveness in cervical cancer through reversal of methylation silencing of microRNA-124. Sci Rep. 2016;6:35480. doi: 10.1038/srep35480.
  • 2. Dong P, Ihira K, Hamada J, Watari H, Yamada T, Hosaka M, Hanley SJ, Kudo M, Sakuragi N. Reactivating p53 functions by suppressing its novel inhibitor iASPP: a potential therapeutic opportunity in p53 wild-type tumors. Oncotarget. 2015;6:19968-75. doi: 10.18632/oncotarget.4847.
  • 3. Huo W, Zhao G, Yin J, Ouyang X, Wang Y, Yang C, Wang B, Dong P, Wang Z, Watari H, Chaum E, Pfeffer LM, Yue J. Lentiviral CRISPR/Cas9 vector mediated miR-21 gene editing inhibits the epithelial to mesenchymal transition in ovarian cancer cells. J Cancer. 2017;8:57-64. doi: 10.7150/jca.16723.
  • 4. Ji L, Zhao G, Zhang P, Huo W, Dong P, Watari H, Jia L, Pfeffer LM, Yue J, Zheng J. Knockout of MTF1 Inhibits the Epithelial to Mesenchymal Transition in Ovarian Cancer Cells. J Cancer. 2018;9:4578-4585. doi: 10.7150/jca.28040.
  • 5. Zhao G, Wang Q, Wu Z, Tian X, Yan H, Wang B, Dong P, Watari H, Pfeffer LM, Guo Y, Li W, Yue J. Ovarian Primary and Metastatic Tumors Suppressed by Survivin Knockout or a Novel Survivin Inhibitor. Mol Cancer Ther. 2019;18:2233-2245. doi: 10.1158/1535-7163.MCT-19-0118.

長期的症例数を
積み重ねた、
臨床研究主体。

婦人科 小林 範子

ヘルスケア領域は包括的であるため関連学会、研究会は多岐にわたります。豊富な臨床経験から湧き出るアイディアを研究に生かし、積極的に発表を重ね、様々な領域の専門家との意見交換を行うことで最新の知見を得て、臨床へ還元しています。他科に限らず、地域社会との連携による社会活動、女性の健康に関する医療従事者・一般市民への啓発活動も地道に行っています。

【女性健康外来】

  • 骨粗鬆症・骨量減少症の早期発見と治療:閉経後に限らず、無月経女性、卵巣摘出後女性のヘルスケアにも関連します。
  • 無月経女性のヘルスケア(原発性・続発性無月経):小児科からのトランジション症例が多く、ターナー女性、下垂体性無月経、副腎性器症候群、小児期の抗癌剤治療による卵巣機能低下症例など。
  • 卵巣摘出後女性のヘルスケア
  • 中高年女性の健康管理・更年期障害の治療
  • 女性アスリートの健康支援(女性アスリートの無月経の診断および治療、月経随伴症状に対する診断および治療および月経周期の調整など):北海道大学病院「女性アスリート・スポーツ外来」(http://hokudai-med-sports-center.org/woman.html)では、整形外科・栄養科と連携しています。

【乳房外来】

  • 女性ホルモン補充療法と乳腺濃度、乳癌発症との関連:乳房疾患は乳腺外科へ紹介しています。

【リンパ浮腫外来】

  • リンパ浮腫および蜂窩織炎の病態把握、治療、長期予後に影響を及ぼす因子、北海道内の地域連携による診療ネットワークの構築:患者居住地の施設、形成外科(手術治療)、入院集中治療施設、リハビリ、訪問看護等